オーディション
編入試験に無事合格した私は、
この勢いに乗って
2年前に一度受けて失敗したオーディションを受けることに。

前回は短大の1年生だったこともあり、
技量不足が合格できなかった原因だったのだと
自分なりに深く反省し、
今回は大学3年生だし、
編入のときの受験曲J.イベールの『小品』を吹けば
その曲で大学に受かったことだし、
さらに自分の腕試しにもなるだろう。
オーディション当日。
演奏場所が2000人位の収容の大ホールのため
その楽屋が待合室だった。

ひとりで待合室で待っていると、
ほかの受験生の話し声が聞こえてくる。
ハイテンションになっているのか元からなのか
いやいや私が単に緊張していたからなのか
やたらと声の大きい3人がいた。

どうやらオーボエ奏者とその伴奏者と譜めくりの人らしい。
私の曲はフルート独奏のため、
ピアニストもいなければ譜めくりもお付の人もいない。
誰一人、知っている人がいない。

するとその3人のうちの一人が
「今日サンダルで来ちゃったけど大丈夫かなぁ。」
するとつかさず別の一人が
「ストッキング履いているから、大丈夫じゃない?」
などと大声張り上げているではないか!

私は緊張感と孤独感の中でさらに不安が押し押せてきた。
なぜなら私はサンダルだし、ストッキングも履いていなかったのだ。

いよいよ演奏順が回ってきた。
私は審査員と関係者が数名しかいない大ホールのステージの真ん中へ
ひとりきりで素足でサンダルで足を踏み出した。
サンダルのカラーン、コローンという音が静寂のなかを
まるでししおどしの早送りのように鳴り響く。
大ホールのなのでステージも大きく中央までかなりの距離がある。
音が鳴らないぬようかかとをなるべくあげないように歩く。

J.イベール
人間大きな失敗をすると開き直る。
ダメでもともと。えぇいと吹き始めた。

すると、思いがけず気持ちよく吹けるではないか。
音も練習通りのいい音だし、
はじめの難所さえ越えてしまえばどうにかなる。
などと、曲以外の雑念を巡らしてしまったのが更なる不幸を呼んだ。

暗譜で吹いていた私は大変なことをした。
同じようなフレーズが2回出てきて2回目で展開していくところで、
1回目のフレーズを2度吹いてしまったのだ。
展開していくはずの音楽が、停滞してしまったのだ。

展開していくためにはなんとかしなくてはならない。
私はアドリブで展開位置まで強引に作曲し、
曲を展開させ終わらせることが出来た。
今度はおそろしいほどの倦怠感が私を襲い、
サンダルのことなどもう気にもせずに舞台から降りた。

さてさて、結果はそんな失敗があったのに合格。
審査員にはフルート専門の先生がいらっしゃたのに。
合格できたのは未だ不思議です。